デューティー制御は、電気のオンオフの繰り返しにより
全体の時間に対してのオンの時間の割合(%)で通電を抑える方法です。
上の図での、Tに対してHの時間が長いほど
燃料ポンプの回転数は上がります。
平成元年に登場したBNR32の燃料ポンプにPWM制御が採用されたのは、
日産のスカイラインGTRに対しての意気込みが感じられます。
制御部品名はFPCM(Fuel Pump Control Module)です。
エンジン制御コンピューター(ECU)の2つの指示信号で
強中弱の3種類のデューティー値が選択され
燃料ポンプの回転数の調整を行っています。
しかし、近年、BNR32のエンジンが突然停止し、
その原因がFPCMにある事例が明らかに増加しています。
ECUのプログラムセッティング中、
空燃比計の数値が、回転数、ブースト圧、アクセル開度、など同じ状況で、
異なる空燃比が交互に現れるような状態では、
当初、その原因が分からず、
しかし、そのような状態のスカイラインGTRの数台では、
その後日にエンジンが完全に停止し、
通電テスト等により、
FPCMの故障が、エンジン停止に関係している事が判明しています。
FPCMは、燃料ポンプを高中低の3段階の回転数に制御していますが
意外と多い故障に、中中低の不可思議な状態があります。
この場合、高回転ではガス冷却が不足し、
リスクの高い高温燃焼に至っている可能性がありますが
ドライバーにはその識別が難しく
純正よりも速くなっているケースもあります。
「壊れる前のエンジンは速い」という言葉がありますが
この燃焼温度とリスクの関連性に起因しているように思われます。
もし、中途半端なFPCMの故障が継続していれば、
ガス冷却が効かない希薄燃焼でエンジン内部が融解するリスクが高く、
発売当時としては、卓越した性能のFPCMですが
今となっては逆にハイリスクな内なる部品になりつつあります。
すでに生産が中止されていた今は、
FPCM本体の延命、温存のため、
コンデンサーや抵抗を交換し故障を抑制する手法で対応していましたが、
正常に動く個体が減少し、オークションなどでの中古市場の出品数も減り、
価格は上がり、
「良品」と表記されていても
それらが正常であるかの判別も難しく、
そこで、代替品の製作を考えるようになりました。
BNR34の純正FPCMです。↓
リアシートの後側に取り付けられています。
内部の画像です。↓
故障したFPCMの内部を確認しても
その原因は目視では分からないケースが多いですが、
明らかに「これ!」と分かる時は、黄色の〇の部品の損傷です。
画像では分かりにくいのですが、
小さなボルトでケースの内側に押さえつけるように固定されている部品は
FETと呼ばれるスイッチの仕事をする半導体で、
これが焦げて白色化している故障は多く、
そのような基板の画像があると分かりやすいのですが、
すべて処分してしまいました。
まさかこのような事態になるとは思わなかったもので、
ちょっと残念です。
FETの画像です。↓
FETはトランジスタの一種です。
性質の違う半導体が組み合わされた構造で
電気信号で動くスイッチとして使用されています。
デューティー制御による1秒間に1000の超高速では、
リレーのような機械的なスイッチでの対応ができないため、
このような半導体によるスイッチングを行いますが
大きな問題がオンオフで発生する温度です。
画像の黄色の〇のFETが、
内壁に押さえつけるように固定されいる理由は放熱ですが、
ボルトが緩んでケースとの間に隙間ができてしまうと、
短時間で白煙を上げ壊れてしまいます。
平成元年に登場したBNR32へのデューティー制御の採用に、
「先端技術」と表現しましたが、
コストを無視すれば「最先端」では無かったようです。
FPCMの基盤に使われている複数の制御回路半導体部品は、
それぞれの特性をパズルのように組み合わせることで、
要求される動作を行えるユニットとして完成しています。
しかし、同じ時期、
エンジンを制御するコンピューター(ECU)に採用されていた
プログラムをパソコン等から入力できる半導体を使用していれば
もっとシンプルに制御ができていたはずです。
しかし、それが使われなかった理由の一つはおそらくコストです。
FPCMのコンデンサー、レジスター類を新型に入れ替える事での
耐久性の向上が目的としたミルスペックでした。
↑純正のFPCM基板
↑ミルスペック化したFPCM基板
故障の多いコンデンサー類と
熱損傷の激しいレジスターが高性能化されています。
しかし現状では、ベースになる正常な純正FPCMが不足の状態です。
そこで、制御のための半導体などを現代の製品に置き換えた
オリジナルのFPCMの製作を目指しました。
最も必要な性能は安定した動作と耐久性です。
自動車で使用できる条件として、120℃の温度に耐えられる部品の選別、
振動や湿度への強さは大前提です。
アテーサE-TSの製品化でお世話になった電子関係の知識の山の
「いつもの人」の助力は必須で、
「純正回路の現在バージョン化」からスタートでしたが、
市販の制御用半導体を組み合わせで複雑化した基板では、
ハンダの割れなどによる故障リスクは長期的には低減が難しく、
FETの発熱対策、設計の更なるシンプルを求め、
「これって、マイコンで制御した方がいろいろと高性能だよね・・・」の一言から、
制御方法には、まったく異なる新型の開発に方向性が変わりました。
(続きます・・・)